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インバウンド戦略を考察してみるー2020年11月月次インバウンドレポート

Updated: Dec 1, 2020

2020年11月月次インバウンドレポート


2020年12月

執筆:インバウンドアナリスト

宮本 大


■11月の出来事要約


 2020年11月の訪日観光(インバウンド)のトピックとしては、新型肺炎COVID-19の感染者が全世界で6000万人を突破。日本では感染者数が日々増加しており、札幌市と大阪市着のGoToトラベルは一時中断。東京都では酒類を提供する飲食業へ時短営業要請。日本政府観光局が発表した10月訪日外国人客数は単月で27,400人となり、先月から倍増のペースとなっている。



■11月主なインバウンド関係ニュース


・2020年10月訪日外国人客数は27,400人。これに関してはこちらのレポートを参照。


・日本国政府は現在タイ、ベトナム、マレーシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー、台湾、シンガポール、ブルネイ、韓国、新)中国とレジデンストラックを運用開始。またシンガポール、韓国、新)ベトナム、新)中国とビジネストラックを運用開始。詳細は外務省の国際的な人の往来再開に向けた段階的措置についてを参照。


・東京五輪大会組織委員会と日本政府は、海外からの観客について14日間の待機措置を免除する方向で検討を進めることで一致。観客数の上限は感染状況などを見極めつつ21年春までに決める方針。詳細はこちら


・アメリカハワイ州が11月6日より指定病院でコロナウイルス陰性証明の提出により14日間の隔離を免除。11月6日の便では64人が日本からハワイへ渡航。詳細はこちら


・IOCバッハ会長が来日。菅首相や東京都の小池百合子知事、大会組織委員会の森喜朗会長らと面会。大会を開催するという強い意志を改めて強調。詳細はこちら


・香港とシンガポールは、航空トラベルバブルの実施を2週間先送りすると発表。香港での新型コロナウイルス感染が再び急増していることが背景。詳細はこちら


・2020年10月にタイを訪れた外国人旅行者は1201人だったと発表した。中国が471人で、全体の4割。2位はカンボジアで231人。以下、クウェートが89人、日本が35人、英国が27人で続いた。


・日本百貨店協会が発表した10月免税店売上高・来店動向速報によると、免税店売上高は前年同月比▲91.8%の約21億円となった。


・観光庁が発表した10月の宿泊旅行統計によると、旅館、ホテル等の宿泊数は前年同月比▲17.2%の3296万人。うち外国人は▲97.3%の28万人となった。



■2020年10月訪日外国人客数


 以下のグラフが2017年-2020年までの訪日外国人客数である。


 日本政府観光局が発表した2020年10月の訪日外国人客数は10月単月で27,400人となった。同年前月比は+100%。前年同月比は▲98.9%となった。


 国別で見ていくと、アジアでは中国:4500人と先月より+1500人。ベトナムは6700人と先月の2700人から大幅増加。韓国:2000人、台湾:1300人とやや増加。また、タイからの入国は1400人、インドからは700人となった。


 英国:300人、フランス400人と、先月からお大幅に増加。ドイツ:300、米国:900人、カナダ100人と先月から増減。アジアと欧米からの訪日客数はどの国も増加した。

 日本政府は10月より原則として全ての国から新規入国を許可しており、先月から訪日客数は倍増した。アジア各国とのレジデンストラックやビジネストラックなどにより、新規在留資格者やビジネスの往来の再開が大きく寄与したと思われる。また、前月比で減少した欧米からの入国者は大幅に増加した。



■免税店総売上高の推移 

以下は百貨店協会が発表している免税店総売上高は以下の図の通り。



 10 月よりビジネス関連の入国規制が緩和され、訪日外国人数が増加しているものの免税売上高は約 21 億円(前年比 ▲91.8%)と先月から引き続き減少。購入品の不動の1位は変わらず化粧品であり2位はハイエンドブランド。またパスポート別購入者のトップは中国本土。以下台湾、マレーシア、タイと続く。


以下は購買客数と購買単価の図である。


 10月の購買客数は約5千人と先月から変わらずも、一人あたりの購買単価は約38万円から約42万円増加。訪日観光客数は増加はしており、先月から購買客数には変化はないものの、一人あたりの購買単価は大きく上昇。引き続き免税店での化粧品やハイエンドブランドの購買意欲の高さが伺える。



■外国人延べ宿泊者数


 以下の図は観光庁が発表している宿泊旅行統計調査の外国人延べ宿泊数の月次推移である。

 

 10月発表の速報値では外国人延べ宿泊者数は約19万人と先月の21.3万人から減少。免税店総売上高と同様、訪日外国人客数は増加にも拘わらず、10月の外国人宿泊者数は減少した。



以下の図は2020年緊急事態宣言後からの都道府県別外国人延べ宿泊数のランキングである。


 グラフの集計を2020年6月からとしており、コロナ前のデータを除くことによって、緊急事態宣言解除後から各都道府県における外国人宿泊者数を把握できる。トップは東京都。次に千葉県、大阪府、沖縄県と続く。観光目的の入国制限をしている中、在日外国人がどこの都道府県に宿泊しているのかがわかる貴重なデータである。在日外国人は日本の事を日本人以上に知っている人が多く、日本人が見落としている観光資源を発見するための有効なデータだと考える。これを元に各都道府県別のインバウンド集客のための戦略を立案してもいいだろう。



■考察

 インバウンドの事業戦略を考える上で、マーケットの分析が必要不可欠である。訪日客数も重要だが、その訪日客がどれぐらい消費に貢献してくれるのかがもっと大切である。


まず、2019年度のデータベースに訪日客国籍別1人1回当たりの旅行消費単価を見てみたい。


 上記の図から見て取れるように、訪日客で1番旅行消費額単価が高いのはオーストラリア、英国、フランス、スペイン、中国、ドイツ、米国、ロシア、カナダ、ベトナムの順と続く。アジアからは中国とベトナムが入り込んでいるものの、ほとんどが西欧文化文明国が上位を占めている。


 このランキングを見て、西欧文化文明国からの訪日客をターゲットにすることはいいが、もっと踏み込んで見てみる必要がある。旅行の消費単価を平均泊数で割り、訪日客数の規模も考慮してみたい。まず旅行消費額を平均泊数で割って、1日当たりの消費額を見てみたい。


 先ほどのランキングと変わって、上位から(下線部は国籍別1人1回当たりの旅行消費額上位国)中国、香港、シンガポール、英国、台湾、オーストラリア、スペイン、イタリア、米国、カナダとアジアの国が上位3位までを占める。データ元が違うが、参考までに日本人の1日あたりの消費単価を入れておいた。


 こうやって見ると、中国や香港、シンガポール、台湾などのアジアからの訪日客の1日の消費額が多いとわかる。次に1日当たりの旅行消費を1日当たりの買物代と娯楽費サービス費に分けて、それに年間訪日客数加えて見てみよう。

 プロット図を見てみると英国とオーストラリアは1日当たりの娯楽費・サービス費が飛びぬけて多いが、訪日客数(円のサイズ)が小さい。中国は訪日客数でトップであり、また1日当たりの買物代はトップ。さらに1日当たりの娯楽費サービス費もアジアではトップであり、全体でも3位に入っている。


次に1日に当たりの宿泊代と飲食代をプロットしたものを見てみよう。


 Rスクエアは0.82と宿泊費と飲食代には高い相関があることがわかる。つまり宿泊費の単価が高ければ高いほど、1日当たりの食費も高くなる傾向がある。シンガポール、英国、香港、オーストラリアの国が宿泊単価も高く、飲食代も高い事がわかる。


次に都道府県別訪問率と消費額を見てみよう。

 消費額と訪問数トップは東京都。泊数トップは埼玉県で消費額も大きいものの訪問数が少ない。奈良県や千葉県、山梨県は訪問数は大きいものの、泊数や消費額が少ない事がわかる(グラフ左下)



 これらのデータを元に、京都府を例にとって簡単な戦略を考えてみる。ゴールは消費額を増加させる事とする。まず、京都府の平均泊数2.3泊を全国平均泊数の4.3泊以上に上げる事を第一の目標とする。平均泊数をあげるためには、京都府に宿泊してもらえるコンテンツを作りながら、1日当たりの宿泊単価が高い国をターゲットにマーケティング戦略を立てプロモーションを行う。そして、1日当たりの買物代と娯楽・サービス費の単価が高い国をターゲットにした消費喚起のコンテンツ作成とプロモーションを行うことにより、全体の消費額の底上げを行い、京都府の円プロットを右上に持って行く。簡単であるが、こういったマクロからコンテンツ作りやマーケティングを考えることも大切である。



■今後のインバウンド市場の予想


 前回のレポートからの一般訪日観光客の受け入れのシナリオを以下の通りに変更する。


メインシナリオ:新)2021年7月以降 旧)2021年3月以降


楽観シナリオ:新)2021年4月以降 旧)2020年12月以降


悲観シナリオ:新)2021年10月以降 旧)2021年7月以降



【ポジティブ材料】


・菅内閣の政策方針。感染症対策と経済対策を同時に行っていく政府の方針。レジデンストラックやビジネストラック運用開始で人の往来が徐々に増えていく。また2030年訪日観光客数6000万人の目標に変更はない。


・IOC及び日本政府は来年の東京オリンピック開催に向けて、観客を入れた大会の開催を前提に動いている事。


・タイ国が一部の国から観光客の受け入れが再開。国を跨ぐ観光のハードルを下げる大きなだ第一歩。


・ファイザーなどの米国製薬大手のコロナウィルスワクチンをFDAが緊急承認をし、年内にアメリカや英国でワクチンの接種が始まる。


【ネガティブ材料】


・日本国内でのコロナウイスル新規感染者が増加していること。これにより、一部の地域でGoToトラベルやGoToイート事業が中断。旅行をするモメンタムの低下を招いている。


・欧米での感染者数の大幅増加。それに伴い欧州では一部を除いて再びロックダウンを再開。欧州域外からの観光客の受入も停止。またフランスなど各国ロックダウン期間を延期する可能性がある。


・日本国内の感染者増加で他国が日本への渡航禁止を延長する可能性が高くなる。また日本人の入国拒否が延長される可能性もありうる。


・シンガポールと香港のトラベルバブルの延期。


・次期米国大統領候補であるバイデン氏が当選した場合、コロナウイスル対策で厳しい対策を講じるリスクがあり、人の移動が制限される可能性がある。



 一般訪日観光客の受入時期を変更し、メインシナリオを2021年7月以降とした。理由としては、ワクチンの普及期待があるものの、来年春までは感染者数増加に歯止めがかからないと思うからだ。残念ながら日本国内でも感染者数増加を抑えられてなく、一部地域でGoToトラベルの中断などを行ったことにより、国を跨いだ人の移動のハードルが大きく上がったと判断した。また、シンガポールと香港が香港でのコロナ感染者数増加により、トラベルバブルを延期したことも大きい。日本での感染者数が抑えられてない限り、相手国が日本への旅行を認める事はしないだろう。


 トラベルバブルに期待はあるものの、インバウンド事業者を取り巻く経営環境はとても厳しいものになるだろう。仮に国を跨いだ観光が再開されても、安心して旅行が出来るようなモメンタムになるのには時間がかかるうえ、どの国も観光客の取り合い合戦になることは明らかである。そのような中、ニーズに合った観光を提案できる事業者が強く伸びると考えるが、インバウンド業者はそれまでに生き延びる事が第一優先事項であろう。




筆者紹介

・立命館大学卒

・SMBCフレンド証券(現SMBC日興証券)を経てかんぽ生命保険入社

・外国債券・為替ポートフォリオマネイジメント、日本株アナリスト兼株式ポートフォリオマネイジメントを担当

・米国College of William & Mary School of Business卒(MBA)

・Japan Localized設立後、訪日観光客向けへ体験ツアーの企画運営、インバウンド市場のリサーチ業務に従事



会社紹介

Japan Localizedは現在、東京、京都、大阪で訪日観光客向けのガイドツアーの運営を行っています。これまで、+50,000人以上訪日観光客へツアーを遂行しました。トリップアドバイザー社の”旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の体験・ツアー2020”で日本全国第3位に選出されています。


 また、北米、欧州、豪州、南米からのインバウンドに特化したツアーの企画、リサーチ、マーケティング、英語及びスペイン語のツアーガイドの養成・研修、欧米豪南米インバウンド向けビジネスコンサルティング、メルマガ発行など幅広くインバウンドビジネスサービスを提供しております。詳しい情報やお問い合わせは弊社のホームページのお問い合わせフォームからお願い致します。



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