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ゼロコロナ思想がインバウンドを殺す|2021年9月月次インバウンドレポート

Updated: Oct 31, 2021

最新インバウンド情報


■9月の出来事要約


 2021年9月の訪日観光(インバウンド)のトピックとしては、東京パラリンピックが閉会。月末に緊急事態宣言が解除され、段階的に行動制限が緩和される。また、水際措置の緩和も発表され、ワクチン接種済みの入国者の自主隔離は14日から10日に短縮される。

 日本政府観光局が発表した2021年8月の訪日外国人客数は8月単月で25,900人となった。



■9月主なインバウンド関係ニュース


・2021年8月訪日外国人客数は25,900人となった。先月より約半減したものの、パラリンピック関連で入国者数は前年同月比+199.1%。詳しくはこちらのレポートを参照。


・10月1日より水際措置が緩和され、ワクチン証明で入国時の待機期間を従来の14日間から10日間へ短縮される。対象のワクチンは米モデルナ、米ファイザー、英アストラゼネカの3つ。詳細はこちら


・11月より米国に空路で入国する外国籍の成人はワクチン接種完了が義務付けられる。詳細は当月中に米疾病予防管理センター(CDC)より発表される。詳細はこちら


・日本交通公社及び日本政策投資銀行は共同でアジア・欧米豪12地域へのアンケート調査による「海外旅行先としての日本の競争力」の調査結果を発表。詳細はこちら


・タイは10月1日より、バンコクなど5都市に加えて、チェンライなど21地域への海外旅行者の受入れを再開。詳細はこちら


・日本百貨店協会が発表した2021年8月免税店売上高・来店動向速報によると、免税店売上高は前年同月比▲5.9%の33.4億円となった。


・観光庁が発表した2021年8月の宿泊旅行統計によると、旅館、ホテル等の宿泊数は前年同月比+6.5%の3,047万人泊。外国人は+144.9%の62万人泊となった。



■2021年8月訪日外国人客数

以下のグラフは2017年-2021年までの訪日外国人客数である。


2017年からの訪日外国人客数の数値。日本のインバウンドの復活は時間がかかる
8月訪日外国人客数|インバウンド

 日本政府観光局が発表した2021年8月の訪日外国人客数は8月単月で25,900人となった。同年前月比は▲49.3%。前年同月比は+199.1%となった。


 国別で見ていくと、アジアでは中国2,400人、韓国1,600人が1,000人台と全体を牽引。次にインドネシアから600人、台湾から400人、フィリピンからも400人だった。


 欧米豪からは、英国1、300人、フランス1、800人、ドイツ1、000人、米国からは3,000人と入国者数が多かった。

8月中旬から開催された東京パラリンピックの選手団の入国が大きく寄与したと考えられる。



■免税店総売上高の推移 

百貨店協会が発表している免税店総売上高は以下の図の通り。


百貨店協会免税総売上高
百貨店協会免税総売上高

 2021年1月から続くビジネス・レジデンストラックの一時停止処置により訪日外国人客数は低位に水位。オリンピック・パラリンピックで入国者数増加も、免税店の売上には大きな影響はなかった。

 購入品の不動の1位は変わらず化粧品であり2位はハイエンドブランド。パスポート別購入者のトップは中国本土。以下台湾、韓国と続く。



以下は購買客数と購買単価の図である。

免税売上高|購買客数と一人あたりの購買単価
免税売上高|購買客数と一人あたりの購買単価

8月の購買客数は約0.8万人と先月に続き、微減。一人あたりの購買単価は42.9万円と、先月から横這い。



■外国人延べ宿泊者数

以下の図は観光庁が発表している宿泊旅行統計調査の外国人延べ宿泊数の月次推移である。



外国人延べ宿泊数グラフ
外国人延べ宿泊数

 

 観光庁が発表した2021年8月の宿泊旅行統計によると、旅館、ホテル等の宿泊数は前年同月比+6.5%の3,047万人泊。外国人は+144.9%の62万人泊となった。



以下の図は2021年1月から7月までの都道府県別外国人延べ宿泊数のランキングである。



 グラフの集計を2021年8月まで集計。このランキングは在日外国人がどこの県に宿泊しているかがわかる貴重なデータだ。在日外国人の宿泊が少ない県というのは、インバウンド客にも人気がない県というのが明白なので、どのように県の観光の魅力を高めるのかを考える発射台としてほしいと思っている。何故かというと、過去のレポートでも述べたように、1日あたりの宿泊費と飲食代の相関は高いからだ。つまり、宿泊数が多く、宿泊単価が高ければその地域の飲食店への経済効果は高いと言える。なので、各都道府県はいかに外国人観光客に宿泊してもらえるような仕掛けを考える必要がある




■今後のインバウンド市場の予想


前回のレポートからの一般訪日観光客の受け入れのシナリオを変更した。シナリオは以下の通りである。


メインシナリオ:2022年4月以降 

楽観シナリオ:2021年12月以降 

悲観シナリオ:2022年8月以降 



【ポジティブ材料】

・国内新規感染者数の減少

・緊急事態宣言の解除

・ワクチンパスポートのデジタル化

・岸田新内閣の期待感


【ネガティブ材料】

・日本政府のゼロコロナ思考

・与野党政治家の慎重論


 海外からの一般観光客の受入れシナリオを変更した。インバウンド回復は来年の4月以降をメインシナリオとしたい。筆者はワクチン接種率の向上で、国を跨ぐ人の往来の段階的な緩和処置を期待していたが、以下のニュースを読み、一気に期待感が吹き飛んだ。


日本経済新聞:9月22日

接種証明、拡大遅れる日本 対象35ヵ国・地域どまり

以下一部抜粋

“ワクチン接種を使った往来再開で日本が遅れているのは、与野党に根強い慎重論があるためだ。野党には水際対策を徹底して感染者をゼロにするよう求める声がある。自民党の外交部会にも「緩和しても感染拡大につながらない科学的根拠を示すべきだ」との訴えがある。”


 政治家が往来再開に慎重であるとまでは考えが及ばなかった。菅総理大臣はインバウンド政策を牽引していた人物であり、経済正常化には前向きな人であったので、筆者はワクチン接種率の向上により、速やかに水際措置が段階的に緩和されると考えていた。しかし、現実は日本政府が入国制限解除に及び腰であった。それは先日の加藤官房長官の定例記者会見にあったように、ワクチン証明を利用しても、自主隔離期間を14日から10日へ短縮するだけの緩和であった。これではアウトバウンドの回復も大幅に遅れよう。また、留学生などへの査証が未だに停止されており、留学生すら入国が許されていない(国費留学生除く)。


 この根底には島国である日本はいまだに心の鎖国から解放されておらず、また“ゼロコロナ”思考が大きな障害になっていると筆者は考える。まず、いまだに“コロナは外国人が持ち込んでいる”という根拠無き思想が日本人にはある。コロナとは関係ないが、例えば以下の記事を読んで頂きたい。


日本経済新聞:9月29日

訪日客で京都観光激動、地域の絆を再考 中井治郎さん

以下一部抜粋

“世界的な流行が始まったころ、京都から外国人観光客の姿が消え、国内の観光客だけになった時期があった。静かで人の少ない街を歩く観光客から「ポスターのような京都が見られた」と喜びの声が上がった。

一方で外国人観光客がいなくなってもポイ捨てやマナー違反はなくならなかったという声があった。京都では様々なことが観光の、特に最近は外国人観光客の「せい」にされてきた。コロナ禍はそれらが本当に全て彼らの「せい」だったのか再検討させた。“


 直接コロナと関係はないが、観光公害は主に外国人観光客の「せい」にされていた。しかし、実際には日本人観光客のマナーも相当悪い。むしろ日本人観光客の方が客単価は低く、頭数だけ多くて今でも観光公害を引き起こしているのではないかと筆者は常々思っている。


 もちろん当初コロナは海外から持ち込まれたものの、今は水際対策で外国人の新規入国が出来ない。またよく考えてみれば、コロナの感染が広がったのも、1回目の緊急事態宣言以降、自粛を無視し続けてきた、我々日本人の「せい」だろう。また、海外から変異株を持ち込んだのも、日本人なのである。そうでなければ、大都市圏以外の地方にコロナは広がるはずはない。それをいまだに外国人が持ち込んだと根拠のなく思い込んでいる人が多い。


 また、完全バブル方式で行われたオリンピック・パラリンピックをきっかけに感染が拡大したのか?新しいウィルスが持ち込まれたのか?いや、むしろワクチン未接種の日本人スタッフが各国選手団から恐れられていた事を日本人のほとんどが知らないのである。


 次に、“ゼロコロナ”思想が日本の開国を大きく遅らせている。街を歩くと“いじめゼロ!”、“交通事故ゼロ!”、“薬物ゼロ!”などのポスターを見かけたことがあろう。この“ゼロ”の発想が“ゼロコロナ”思考となり、なんとしてでもコロナを撲滅しようという方向に政策や思考が向かってしまう。昔日本は欧米に追いつけ追い越せ、欧米を模倣し、自国流に改善、逆輸出をする勢いのあるアジアをリードする国家だった。しかし、今やワクチン接種が遅れ、中国製ワクチンを打っている医療体制が貧しいアジア諸国と同様なゼロコロナ政策をとっている。むしろ海外から日本はコロナ蔓延国だと思われており、日本人を入国禁止にしている国も多いのだ。


 このような状況では、いつまでたっても国を跨ぐ人の往来は再開されない。12月頃には留学生や就労者、ビジネスでの入国は認められる可能性があるが、これも感染第6波が訪れ、再び緊急事態宣言を発令する状況になれば、時計の針は逆戻りになるだろう。


 筆者はワクチン接種率をみながら水際措置の段階的な緩和を予測していたが、残念ながら今後は日本政府のWithコロナ政策への切り替えを待つしかないだろうと考える。まずは国内の観光、次にアウトバウンドが先だろう。これも見通しがまだ立っていない。岸田内閣には期待はできないが、早く国内の経済活動の正常化に取り組んでもらいたい。インバウンドは最後の最後だ。



筆者紹介

・立命館大学卒

・SMBCフレンド証券(現SMBC日興証券)を経てかんぽ生命保険入社

・外国債券・為替ポートフォリオマネイジメント、日本株アナリスト兼株式ポートフォリオマネイジメントを担当

・米国College of William & Mary School of Business卒(MBA)

・Japan Localized設立後、訪日観光客向けへ体験ツアーの企画運営、インバウンド市場のリサーチ業務に従事



会社紹介

 Japan Localizedは東京、京都、大阪で訪日観光客向けのガイドツアーの運営を行っています。これまで、+50,000人以上訪日観光客へツアーを遂行しました。トリップアドバイザー社の”旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の体験・ツアー2020”で日本全国第3位に選出されています。現在はライブストリームで日本各地からオンラインツアーを行っております。

 また、北米、欧州、豪州、南米からのインバウンドに特化したツアーの企画、リサーチ、マーケティング、英語及びスペイン語のツアーガイドの養成・研修、欧米豪南米インバウンド向けビジネスコンサルティング、メルマガ発行など幅広くインバウンドビジネスサービスを提供しております。詳しい情報やお問い合わせは弊社のホームページのお問い合わせフォームからお願い致します。


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