2021年5月月次インバウンドレポート
2021年6月
執筆:インバウンドアナリスト
宮本 大
■5月の出来事要約
2021年5月の訪日観光(インバウンド)のトピックとしては、新型肺炎COVID-19の変異株が国内で蔓延。それに伴い3度目の緊急事態宣言が6月20日まで延長。緊急事態宣言期間中の飲食業への時短営業要請、商業施設に休業要請及び新規入国者の入国原則禁止を続ける。
欧州連合はEU加盟国以外のワクチン接種済みの観光客受け入れを表明。夏の観光シーズンに向けて人の往来再開を加速。そのような中、アメリカ国務省が日本への渡航情報を「渡航中止の勧告」に引き上げ、シンガポールー香港のトラベルバブルも再度延期。アジアと欧米諸国の差が鮮明となった。
日本政府観光局が発表した2021年4月の訪日外国人客数は4月単月で10,900人となった。前年同月比は+273.7%。
■5月主なインバウンド関係ニュース
・2021年4月訪日外国人客数は10,900人。新規入国の原則禁止は継続も先月から大きな変化はなし。詳しくはこちらのレポートを参照。
・日本国政府は緊急事態宣言発令解除後も、ビジネストラック・レジデンストラックを1月14日からの一時停止措置を延長。詳細は外務省の国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について参照。
・欧州連合は2021年夏より、EU域外からの観光客受け入れを再開。詳細はこちら。
・菅首相はワクチン接種を1日100万回へ引き上げを目標に置き、大規模接種会場などの準備を加速も打ち手不足が深刻。詳細はこちら。
・ワクチンパスポートに関する議論は世界各地で行われている。日本政府の導入を検討しており、その状況は目まぐるしく変わっている。現状どうなっているのかはこちらの記事を参照。
・変異株の蔓延で香港とシンガポール間のトラベルバブルは再度延期となった。詳細はこちら。
・東京オリンピック、パラリンピックの観客上限判断は緊急事態宣言解除以降となる見通し。詳細はこちら。
・株式会社MATCHAが第2回目のインバウンドサミットを6月19日に開催。参加は無料。申し込みはこちら。
・日本百貨店協会が発表した2021年4月免税店売上高・来店動向速報によると、免税店売上高は前年同月比+797.4%の45億円となった。
・観光庁が発表した2021年4月の宿泊旅行統計によると、旅館、ホテル等の宿泊数は前年同月比+146.9%の2,396万人泊。外国人は▲97.9%の24万人泊となった。
■2021年4月訪日外国人客数
以下のグラフが2017年-2021年までの訪日外国人客数である。
日本政府観光局が発表した2021年4月の訪日外国人客数は4月単月で10,900人となった。同年前月比は▲11.4とやや減少。前年同月比は+273.7%となった。
国別で見ていくと、アジアでは中国3,300人、韓国1,100人と先月から引き続き全体を牽引。次に変異株が猛威を振るうインドから600人、台湾400人と続く。ベトナムからの訪日者数は300人であった。
欧米豪からは、英国200人、フランス100人、ドイツ100人、米国600人と先月からあまり大きな変化はなかった。引き続き水際の対策強化と新規入国一時停止の影響が大きく数値に現れた。
■免税店総売上高の推移
以下は百貨店協会が発表している免税店総売上高は以下の図の通り。
2021年1月から続くビジネス・レジデンストラックの一時停止処置により訪日外国人客数は低位に水位。しかし、免税店売上高は堅調に推移も、4月は約45億円と先月より下回った。
購入品の不動の1位は変わらず化粧品であり2位はハイエンドブランド。パスポート別購入者のトップは中国本土。以下台湾、香港、韓国と続く。
以下は購買客数と購買単価の図である。
4月の購買客数は約1.1万人と先月から下落。一人あたりの購買単価は40.2万円へ上昇。購買客数が減少したものの、購買単価は上昇。引き続き免税店での化粧品やハイエンドブランドの購買意欲の高さが伺える。
■外国人延べ宿泊者数
以下の図は観光庁が発表している宿泊旅行統計調査の外国人延べ宿泊数の月次推移である。
直近発表の速報値では外国人延べ宿泊者数は約24万人と先月の26万人から▲8%。減少要因としてはまん延防止等重点措置や緊急事態宣言発令の影響によるものだと考える。
以下の図は2021年2月からの都道府県別外国人延べ宿泊数のランキングである。
グラフの集計を2021年3月から集計。このランキングは在日外国人がどこの県に宿泊しているかがわかる貴重なデータだ。在日外国人の宿泊が少ない県というのは、インバウンド客にも人気がない県というのが明白なので、どのように県の観光の魅力を高めるのかを考える発射台としてほしいと思っている。何故かというと、過去のレポートでも述べたように、1日あたりの宿泊費と飲食代の相関は高いからだ。つまり、宿泊数が多く、宿泊単価が高ければその地域の飲食店への経済効果は高いと言える。なので、各都道府県はいかに外国人観光客に宿泊してもらえるような仕掛けを考える必要がある。
■今後のインバウンド市場の予想
引き続き、前回のレポートからの一般訪日観光客の受け入れのシナリオは以下の通りである。
メインシナリオ:2022年1月以降
楽観シナリオ:2021年10月以降
悲観シナリオ:2022年4月以降
【ポジティブ材料】
・日本でのワクチン接種加速期待
・日本政府の2030年訪日観光客数6000万人の目標
・欧米で観光客の往来が再開
・アウトバウンドの復活
【ネガティブ材料】
・GoToトラベル事業の再開未定
・ワクチン接種の遅れ
・オリンピック・パラリンピックのネガティブな印象
引き続き、一般訪日観光客の受け入れシナリオに変更はない。先月からインバウンド関連の大きな出来事としては2つあると考える。一つはアメリカ国務省が日本への渡航情報を「渡航中止」に引き上げたことである。こちらはオリンピック及び日本への観光を考えている人に対してはネガティブ材料である。二つ目は欧州連合がワクチン接種済みの一般観光客の受け入れ再開で、日本人のアウトバンドから復活していき、ワクチン接種済みの日本人の帰国後の自主隔離が免除される動きとなる可能性がある。これはポジティブ要因と考える。それに加えて日本政府は東京オリンピック・パラリンピック開催へまい進しているので、国際的な人の往来の再開が進むと考える。
米国とイスラエルは完全にコロナから回復し、経済の正常化をいち早く実現した。続くは英国だろう。欧州もそのあとを追う。たとえ、今後コロナが収束しなくても元の行動制限がある日常へは戻らない。なので、ワクチンがある日本は接種スピードさえ早めれば、アジアで一番早く経済の正常化のスタートラインに立てるだろう。また、ワクチン接種をした日本人から海外旅行が再開すると考える。特に米国ハワイなどの需要は大きいだろう。そのワクチン接種済みの帰国者や入国者の自主隔離をいつ免除するのかが、ポイントになると考える。ひとつは6月20日の緊急事態宣言が解除され、そこからオリンピック開催までには判断され、即時実行されると筆者は考える。
今月のインバウンド情勢を考えるうえで重要なポイントは、緊急事態宣言が終了する6月20日までのワクチン接種の進捗度。そしてオリンピック開会式までのワクチン接種済みの入国者や帰国者の自主隔離免除を行うかどうかが注目であろう。
筆者紹介
・立命館大学卒
・SMBCフレンド証券(現SMBC日興証券)を経てかんぽ生命保険入社
・外国債券・為替ポートフォリオマネイジメント、日本株アナリスト兼株式ポートフォリオマネイジメントを担当
・米国College of William & Mary School of Business卒(MBA)
・Japan Localized設立後、訪日観光客向けへ体験ツアーの企画運営、インバウンド市場のリサーチ業務に従事
会社紹介
Japan Localizedは現在、東京、京都、大阪で訪日観光客向けのガイドツアーの運営を行っています。これまで、+50,000人以上訪日観光客へツアーを遂行しました。トリップアドバイザー社の”旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の体験・ツアー2020”で日本全国第3位に選出されています。
また、北米、欧州、豪州、南米からのインバウンドに特化したツアーの企画、リサーチ、マーケティング、英語及びスペイン語のツアーガイドの養成・研修、欧米豪南米インバウンド向けビジネスコンサルティング、メルマガ発行など幅広くインバウンドビジネスサービスを提供しております。詳しい情報やお問い合わせは弊社のホームページのお問い合わせフォームからお願い致します。
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